小鳥の遊び場

詩と文のライブラリ

辞めた物に手を出した

 恐ろしい夢を見た。時間の歪み。時空を場所が入れ替わり、立ち替わり、孤独な世界。十字架を背負ったあの日のこと。フィクションならどれだけ良かったか。過去の清算。時間は永遠。背負ったものは返せない。

 

 孤独に生きた私だったが、ある人に救われたの。自分すら信用出来ない私がその人だけは信用できた。味方が出来たようで嬉しくて嬉しくて、恋に落ちた。その恋は成就はしない。わかっていても愛した。私の唯一の味方。愛をくれる人。しかし、過去は変えられず、十字架は無くなりはしない。恋に浮かれていた私を呼び戻したのは夢。意識なんてしなくても勝手に見てしまう夢。十字架は永遠にあり続けるのだと思い知らされた。消えない傷跡と共にあり続けるのだと、私に夢はリアルに思い出させた。時間は巻き戻らない。十字架は消えない。砕かれた物は元には戻らない。恋なんかに浮かれてんじゃねえよ。夢は私にそう告げた。


 傷は沢山ある。腕にも、手の甲にも、ふくらはぎにも、太ももにも。でも、傷なんかよりも重たいものが私にはある。正確には私達には(・・・・)ね。全人格全員が背負ってしまった物。十字架。人の死。生きなくてはならない背負った物。死ぬことは許されず、死にたいと願っても生かされ続けるこの身体。自殺未遂なんて数え切れない程して来たこの身。でも、生かされた。医療の力も確かにあったけど、医者でも死ぬと言われた自殺未遂は失敗に終っている。何故?十字架が死なせてはくれないのよ。辛くても逃げても傷だらけになっても生きろと。清算しろと。死ぬなんて許さないと。壊れても砕けても十字架は残り続けた。重たい十字架。子供も大人も関係ない。背負ったものを清算せよと。十字架は私達を追い込む。

 今日、私はこの十字架の重みに触れて久々にタバコに手を出した。自分が崩れそうなのを感じたから。タバコで紛らわせた。しばらく吸ってなかった煙は美味しく感じた。十字架もこの煙のように空に消えて仕舞えば良いのに。そんなのは幻想。あり得ない事だけどそれでも願ってしまった。人が信用出来ない私は恋なんかに浮かれている場合ではなくて、十字架の清算に努めなくてはならない。苦しくとも怖くとも、逃げることは許されない。愛した人。まだ好きよ。でも私にはまだやらなくてはならない事があったの。ごめんなさい。恋に浮かれてごめんなさい。許してはくれない十字架だけど、一生背負って行くわ。美味しいタバコ。私を少しは癒して。

 

京華