小鳥の遊び場

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割れた花瓶の声

 激しく燃え盛る怒りは容赦なく心を燃やした。荒れ狂う心には容赦ない怒りの炎が移り心を燃やし壊そうとする。横からの水を蒸発させ、炎は怒りを媒介に大きく大きくなっていく。

 

 忘れるでないぞ。人の子め、除け者にした罪は大きい。

 

 食い殺される心に水は蒸発しながらも流れ続けた。炎を鎮火させようと必死に流れる濁流をいとも簡単に炎は蒸発させた。燃やして燃やして。蒸発した煙が辺りを曇らせる。日の光はその雲によって遮られ当たることは僅かにしかない。

 

 この怒りは何処に持っていこうか。燃え盛る燃え盛る。心を燃やし尽くした炎は他の人へ燃え移らんと足掻く。それを雲が隠して撹乱させて誤魔化して誤魔化して何とか消えるように祈りを込めて封じ込めんと必死に霧となり雲となり雨となり、炎を封じ込め続けている。だが、怒りは容赦なく辺りを燃やす。心が、清い心が炎を鎮火させんと流れる。雲が日の当たらぬ黒い世界に怒りを炎を封じた。鎖のような雲が心を縛る。それがより炎を怒らせた。

 

 くっそ、忌々しい雲め。霧め!またかまた除け者にする気か!?許さぬ許さぬぞ。忘れさせはしない。いつまでもいつまでも燃えて燃やして燃やして燃やしてやる!

 

 怒りが溢れ出す。しかし清らかな水が雲で辺りを覆い尽くしているので外には出られない。炎は怒りは闇雲に周りを辺りを燃やす。炎が飛びそうになる度、水が食い止める。繰り返し。やがて炎は自身が何故ここまで燃えているのか分からなくなってきた。だが、怒りは持ったまま。何に怒ればいいのか。何に怒って燃やしているのか、もう怒りは分からなくなってきている。

 

 長い年月がたった。清い水がまた炎を撹乱した。炎はまた除け者かと、怒りを燃やして、心を食い尽くさんと燃やし尽くさんと荒れ狂った。いつの間にか、怒りは日の光は全く見えない闇へと落ちていた。

 

 清らかな水よ。あなたでは鎮められない。この怒りは私が引き受けましょう。

 

 紫の壊れた花瓶が清らかな水に囁いた。清らかな水はそれはダメだと流れを強くして鎮火を急ぐ。しかし、長年燃え続けた炎はそれを全て蒸発させる。怒りが荒れ狂って訳の分からぬまま、燃え続けた。紫の割れた花瓶が、その炎に蓋をしようともがく。水を無くせば日は当たるのでは?と紫の割れた花瓶は足掻いた。何とかしようと必死だった。割れた花瓶の割れ目から清らかな水が滴る。雲は晴れない。日は当たらない。

 

 どうしたらいい?

 

 怒りの炎。燃える炎。流れる清らかな水。どうしても蓋が出来ない。花瓶は、割れ続ける。罅が大きくなる。留めようとしたのに、もう水を防ぎきれない。

 

 方法はあと1つ。緑の風だけ。風が吹けば炎は怒りは留まるだろう。緑の風よ、どうかこの怒りの炎を鎮たまえ。紫は空に願った。

 

 空よ、一瞬でいい。この怒りに日の光を与えたまえ。

 

 空は

 

 いいよ。一度だけだ。風を吹かそう。その一瞬を見逃したりしないで。

 

 と、紫のもう花瓶とは言えない硝子の欠けらに答えた。

 

 

 私は待っている。その風が吹くのを。風と日の光を待っている。タイミングを待っている。それまで出来るだけこの怒りの炎の辺りに落ちていよう。この終わらない水と炎の掛け合いを待とう。風よお願い。怒りの炎に日の光を。散々と輝く清らかな日の光を怒りに、炎に、与えたまえ。

 

 

 風はまだ吹かない。日の光を待っている。

 

 

 小鳥遊京華