小鳥の遊び場

詩と文のライブラリ

白昼夢

 午前4時。寝たのは3時。ああ、また夢を見たのかと私は電気の着いた自宅で時計を見つめる。派手な下着。ネグリジェ。今宵も男性と悲しいダンスをしたのね。鳥の鳴き声が明るくなってきた外から聞こえる。私を起こしたのは夢か、それともアイツなのか。マットレスから立ち上がり、知らない男を見つめる。そいつは誰か。記憶にない。また知らない男を招き入れてダンスでも踊っていたのか。グースカ寝ているその男は、何故か、私たちの服を着ている。赤茶の髪色。寒そうだったから布団をそっとかけ直してあげた。

 

 私には無い記憶。きっと誰かが知っているのだろう。彼の事を。今宵の夢もきっとアイツのせいに違いない。今宵の夢、犯される夢。快楽と恐怖の夢。

 

 白く染った部屋に、一人、私は佇む。一瞬で分かった。ここは夢であると。なんせもうあの地獄から解放されたはずなのだから。でも、白昼夢の世界は私には残酷で、夢だと分かっていても起こしてはくれない。一人拘束帯を巻かれたまま、ボヤっと真っ白い部屋で、佇む。これから地獄のダンスが始まる事をこの時の私はまだ知らない。

 

 後ろで音が鳴った。振り向く私。そこには多種多様な男性が揃って入ってきていた。ぞろぞろ、年齢は関係ない。ただ、男達が血走った目で私を見ていた。見つけた瞬間、私は目を見開いていた。怖かった。拘束帯のせいで上手く動けなかったが、私は逃げようともがいた。これから始まる行為を何となく察してしまったから。ここで気づいた。声が出せない。違う、口に何が巻かれている。んーんっとしか発せない私を男たちはニヤリと笑って見ていた。何名ぐらいだろうか。ゆうに30はいる男たち。何かを話している?なんだろうと、私は耳を澄ます。

 

「誰からにします?」
「若いもんは後だろ」
年功序列っすか?」
「老い先短いのから始めよう」

 

 聞くんじゃなかった。これはダンスの順番決め。嫌だ嫌だ嫌だ。怖い。芋虫のようにベッドから這う私の足を誰かが掴んだ。ニヤニヤしながら四方を囲む男たちの誰かの手が、私を掴んで離さない。逃げたい。怖い。でも掴まれた足は離れようと、逃れようと動いても掴まれたまま。それどころか、「よいしょっと」と、下に引きずられた。逆らうことは出来そうにない。必死にんーん!っと声を上げるがカチャカチャと頑丈に付けられた拘束帯がなるばかり。

 

「早く始めよう」

 

 その声は私を地獄に叩き込む言葉だった。始まったのは、唸るだけの人形と化した私を、男たちが代わる代わるダンスしていくお遊び。どんなに睨んでもどんなに逃げようとしても男たちはズボンを脱ぎ、ダンスを続ける。快楽と恐怖と憎悪が体を駆け巡る。殺してやる。なんて思ったりもした。早く終われ早く終われ。目覚めろ。終わる事の無い、白昼夢。男たちの顔はよく覚えてない。覚えているのは拘束帯の金具の音と、男たちの洗い息遣い。ここで目が覚めた。

 

 悪夢だった。今宵も悪夢だった。私の夢は悪夢しかないのか。平和な夢はないのか。白に塗れた部屋を思い出し一人、私はこれを書いている。白昼夢でも私の現状は変わらない。ネグリジェ、隣にいる知らない男。今宵も悪夢で寝れることは無いのだろう。

 


京華