砂漠に黒い蛇が一匹。オアシスに向かい、急いでうねる。オアシスは、楽園だ。遠くの方に見える緑に、蛇は、オアシスが近いことを悟る。スピードを上げよう。手足のない蛇は、地を這うことしかできない。それでも急いでオアシスに向かう。オアシスには何が待っているのか。この蛇にとって何が一番大切なのか。それは、生きるための水。蛇は生死をかけてオアシスを探していたのだ。消えそうな炎を何とか息を吹きかけて取り戻すかのように、蛇は命からがらオアシスを目指していた。
やがて陽は下がり、夕暮れの頃、黒い蛇は巨大な影を作りながら、オアシスまであと少しというところまで来ていた。命をかけて見つけ出したオアシス。このオアシスが無ければ、きっと蛇は生き抜くことが出来なかっただろう。
目を見開く。そこには月が照らしだした池がポツリと、木に覆われた真ん中にあった。黒い蛇は必死に水を飲む。たかが小さな蛇。大きくいっぱい飲んでも、この池は枯れることはないだろう。だが、黒い蛇は途中で飲むのを止めた。自分と同じような思いをしている仲間がいるかも知れない。罪悪感に押しつぶされそうになったのだ。
そんなとき、月の光に影が2つ。蛇と、もう1つは龍だった。あまりにも必死に水を飲んでいた蛇は気付かなかったが、仲間を思いやっていたとき、一瞬、龍と目が合ってしまった。すぐに逸らしはしたが、その後も龍は蛇を見続けていた。
月夜が照らす2つの細長い影。1つは龍。もう1つは黒蛇の。飲むのを止めた蛇に対し、龍はその黒蛇に「もっと飲め」と言った。
「死にたくなければもっと飲め」
黒蛇は言った。「自分で独り占めするのは良くないと思ったから、周りの仲間にも教えてやらないとならない」それを聞いた龍は、にんまり笑った。
「この俺に対してそんな風に声を掛けられるとは思わなかった。お前おもしろい奴だな。いいだろう。明日ここら辺一帯を水で覆い尽くして見せよう。俺は龍だ。水を司る龍神だ。それぐらい簡単なことだ。約束したぞ」
その言葉を最後に、龍は煙のように消えていった。月の真ん中を、煌びやかな鱗を持つ龍が一匹、通った。
黒蛇は動き出した。仲間にここを伝えるために。でないと仲間達も死んでしまう。黒蛇は一生懸命仲間を集めた。それは朝日が昇るまで。
だが本日は違った。いつも晴れていてカンカンと砂漠の中、普段は天気が良いのだけど、今日は何故か雲が多い。ドス黒い雲に覆われた空を見て、黒蛇は少し不安になった。まさか本当にあの神様と言っていたのは神なんだろうか?本人も分からない。そんな内に、なってしまった出来事。