生きることへの執着がなくなってきた頃に、彼女は唐突に現れた。
「ねえ」
声をかけられたとき、体が飛び跳ねた。振り上げていた剣もカタンと音を立てて、落ちた。ここには誰も入れないはずだ。だって、ここは僕の心の奥なんだから。そして僕はここで、この心の臓に剣の刃を突き刺そうとしているところだった。「死んじゃえ」たくさん言われるたびに僕はここで一人、刃で貫いてきた。いつも通りの夜、君は僕に話しかけてきた。
「ねえ、なんでそんなことするの?」
その言葉は純粋で、僕は戸惑った。なんでって。『みんなが僕の死を望んでいるから』わかりきっている質問。少し、粗めに僕は答えて、計画通り心の臓を刃で貫くことにした。落ちた剣を広いもう一度もう一度。これが正しさだと思うから。
「これが正解だと思う」
僕という存在はいらない存在で、あの「死んじゃえ」とかの罵詈雑言の数だけ僕は僕を刺し殺さなきゃいけないんだ。だから邪魔をしないで。邪魔を……。
「辛かったね、もう大丈夫だよ」
ガバッと後ろからその子は僕に抱きついた。驚いた。そしてそれまで堪えていた涙がダムが崩壊したように、どばっと流れ出した。剣を持っていた手には力が入らなくなって、剣は下にカシャンと落ちた。
「つ、辛く、なんて、ない」
「そんなこと無いよ。自分を傷つけるなんて尋常じゃないことなんだよ。これまでよく生きててくれたね。ありがとう」
嗚咽交じりに言った言葉にかぶせるように彼女は僕を抱きしめながら言った。
本音は辛かった。辛くて逃げたくて。でもできなくって。毎日来る親の怒鳴り声。僕をおちょくるクラスメイト。先生は見て見ぬふり。心の臓を貫きたくなる毎日。苦しくて苦しくって。でも誰もそんなこと分かってくれない。全ては僕のせいなんだ。だから!
ありがとうなんて言われる資格はない。
僕は強引に彼女を引き剥がし落ちた剣を握りしめ心の臓にぶっ刺した。血は涙のようにあふれ出る。痛い。でもいつもこうして生きてきた。今回も同じだ。
「ああ、どうして……」
彼女はその場に経たりと座り込んでしまった。
「僕のせいなんだ。僕のこと何にも知らない奴が止められるものじゃない」
=======テスト終了=======
うつ病の患者のためのAIテスト。心の奥にいた君はもういない。これは自殺を食い止める政府が作り上げた《心の中に仮想AI》人物を作り上げ自殺者を削減するためのプロジェクト。